異なる個性やスキル、経験を持つ人々が出会うことで、革新的なアイデアや思いもよらないワクワクが生まれることがあります。
そんな場をつくりたいと考えて誕生したのが、「MEISEI CROSSING BASE」。社会課題を解決するビジネスを生み出し、地域のイノベーションを加速させるための創業支援拠点を目指しています。
去る5月16日、「MEISEI CROSSING BASE」のキックオフイベントとして、さまざまな分野で活躍する起業家を招き「CROSSING DAY 2025 SPRING」を開催しました。
多くの人が集まり、ステージは想像以上に盛り上がりました。まさに”クロッシング”することで広がりを見せることを体現したイベントに。今回は、「CROSSING DAY 2025 SPRING」の様子をレポートします。
クロッシングから生まれる私たちの未来

開始1時間ほど前から続々と参加者が集まり、それまでは静かな図書館らしい雰囲気だった会場が、次第に期待に溢れる空気感に変わっていきました。
イベントは冨樫伸 学長の挨拶からスタート。明星大学で長いことあたためていた構想が、東京都の「大学発スタートアップ創出支援事業」に認められたことでついに実現に至ったと、とてもうれしそうにお話されていました。
続いて、司会を務める経営学部教授の伊藤智久先生より、「MEISEI CROSSING BASE」についての紹介がありました。
「やってみたいな」「興味がある」「こんなアイデアを実現できないだろうか」というような、個人の考えにすぎず取り組めなかったことも、「MEISEI CROSSING BASE」が協働できる仲間と出会い、チャンスや知識を獲得する場を提供することで、実現の支援をします。
特筆すべきは、誕生して間もないプロジェクトでありながら、すでに世間から注目を集めている点。実は今回のキックオフイベントは、明星大学だけでなく、中央大学・一橋大学・帝京大学・武蔵野美術大学などと共催しています。
会場をざっと見渡すだけでも、明星大学や他大学の学生・教職員のほか、地域の自治体や企業の方々など、さまざまな参加者が集まり、関心度の高さがうかがえました。
参加者の多様な顔ぶれから、「MEISEI CROSSING BASE」が目指す方向性がすでに垣間見えたとも言えるでしょう。冨樫 学長、伊藤先生のお話によって、イベントへの興味関心がさらにかきたてられるスタートとなりました。
キックオフに相応しい4人のパネリストが登壇!

「CROSSING DAY 2025」のメインイベントには、キックオフに相応しい以下4人のパネリストが登壇。起業に関するリアルな経験を語っていただきました。
甲斐隆之氏(合同会社Renovate Japan 代表)
河野辺和典氏(株式会社LOAD&ROAD 代表取締役)
九冨里絵氏(株式会社アントレッサ 代表)
金子晃輝氏(株式会社ロンド 代表取締役)
合同会社Renovate Japan代表の甲斐隆之氏は、空き家と貧困問題に取り組むソーシャルビジネスを展開。世の中の制度に救われた経験を持つ甲斐隆之氏は、そういった機会に恵まれた側の立場として貧困問題を研究し、どのように社会に還元できるかを考えていると言います。
「タテナオシ」事業では、空き家を活用し、住む場所と仕事に困っている人に住み込みの空き家改修を提供。不可抗力で身についたレッテルにより、生きるための機会損失がないような社会を目指しているとお話されました。
株式会社LOAD&ROADの代表取締役である河野辺和典氏は、「世界中においしいお茶を届ける」をコンセプトに、お茶を淹れることに特化した家電の開発、茶葉の買い付け、販売などを行っています。
飲む瞬間から飲んだ後のデータ解析までするお茶を淹れるマシーンを展開し、指の温度、なりたい気分などを解析し、その人だけのためにお茶を淹れる機械をつくっているとのこと。ちょっとしたアイデアをきっかけに、アメリカの大学院で出会った仲間と起業したそうです。
株式会社アントレッサ代表の九冨里絵氏は、イタリア製バッグのデザイナーを経て、女性用下着の輸入代理店を展開。自分が身につけたいと思う下着をつくりたいという思いから、自社ブランドを立ち上げた経験を持っています。多くの女性が共通して感じているであろう下着に関する疑問や要望、時代の価値観がマッチしたとお話されていました。さまざまな経験を活かし、現在は女性のキャリア支援に関心を持っているそうです。
株式会社ロンドで代表取締役を務める金子晃輝氏は、明星大学在学中に起業をした経験の持ち主。起業当初は多摩地域、特に日野市を中心に町づくり事業を行っていましたが、現在では日本全国の2000人以下の集落支援を行っています。
ハードよりはソフトに重きを置き、地域の課題を認識して地域の人々と一緒に産業を生み出し、豊かになっていくことを目指しているそうです。金子氏は現在東京、岩手県奥州市、秋田県にかほ市の3拠点をベースにしており、アグリテック系のスタートアップなども手掛けています。
パネリストが直面した起業のリアル
伊藤智久先生のリードのもと、パネリストが直面してきた起業のリアルな話が展開されていきました。起業に興味があり、目指す多くの参加者にとって、参考になる貴重な経験談を聞く機会となったのではないでしょうか。
ここからは、イベントで語られた以下の5つのポイントについて、それぞれの登壇者の経験や意見を要約して紹介します。ぜひチェックしてみてください!
起業の魅力
起業の理想と現実
起業の向き・不向き
一緒にビジネスをする人
失敗しないコツ

起業の魅力
これから起業を考えている方にとって、起業の魅力は最も気になる点の一つではないでしょうか。伊藤智久先生の「起業の魅力とは何なのか?ワクワクしたことはあるか?」という問いに対し、こんな回答が各パネリストから飛び出しました!
甲斐氏:「思いついたアイデアが形になり、世の中に広まっていくことでしょうか。発信は得意ではないのですが、アイデアが世間の興味を引いてメディアに取り上げられるようになり、形になっていく課程にワクワクしましたね。」
河野辺氏:「就活しなくていいというのが、大きな魅力ですね(笑)。サッカーをやっていたので、今本田圭佑さんと仕事ができているのも魅力です(笑)!それとは別のところで言うと、大企業の家電メーカーから出すのは難しい、試すのもニッチすぎて難しい。でも自分たちで資金調達して、リスクを取りながらもトライしていけるのは面白い。リアルなフィードバックがダイレクトに市場からキャッチできるっていうのは魅力ですね。」
久富氏:「起業でチャンスも仲間も増えました。自分の望む下着をつくりたい思いがあったんですけど、会社員だったとしても世の中がそれをつくり上げたかもしれないとは思います。実際今の世の中はそうなっていますから。ただ、私にとって起業は一つのハックでした。起業したことでキャリアが広がったこと、たくさんのすばらしい体験ができたことが魅力ですね。」
金子氏:「仕事の考え方が、仕事は責任のある遊びという感覚なので、好きなことを責任を持ってやっていることが魅力だと感じています。」
起業の理想と現実
伊藤智久先生が次に問いかけたのは、「起業の理想と現実」。夢を思い描いている時って、美しい理想をイメージしますが、現実はどのような感じなのでしょう?「思っていたのとは全然違うよね!」というパネリストのみなさんの「起業家あるある」を見ていきましょう!
金子氏:「サービスを提供すれば売れると思ってたんですけど、現実はそんなに簡単に売れないですね(笑)。学生起業時はお金がなくて、当時渋谷の東急に支援してもらって起業したんですけど、本当にお金がない時期が続いたんです。おかげで、お金がない時の知恵もついたし、その時の状況に戻りたくないというのが今の仕事の原動力にもなっていますけど!」
久富氏:「物販は仕入れがあるので先にお金出ていくんですけど、売れれば売れるほど仕入れもさらに金額が大きくなっていくのが怖かったですね(笑)。数百万、数千万の支払いが当たり前になっていった時にあれ?おかしいな!すごいお金払ってる!怖いって思いましたね。あとは出る杭は打たれるような感じで、メディアに露出するほどイベントでも競合の調査が来るし、想像以上に世間の反応、反響、注目度があってプレッシャーに追い詰められそうな時がありました。」
河野辺氏:「起業すると、どうしてもお金問題はありますね。友達の家で寝袋で寝ていたこともありました(笑)。でもお金がない時もその状況を楽しめていましたし、良い思い出です。理想と現実のギャップはありますけど、ネガティブでもありポジティブでもありますね。突然お金持ちが現れて投資をしてくれるとか、大なり小なりあるとしても、現実は映画のようなマジックはないかな。現実は、普通にやるべきことをコツコツやると意外と結果は出るなと感じて安心しました。」
甲斐氏:「僕は今もお金問題大変です(笑)。現在進行している案件で、元々そんなにリスクを取るはずではなかったのに、資金調達の関係で僕が想定外の大きな借金を負う形になりまして。最初2ヶ月は赤字で、最近ようやくプラマイゼロになりました。トラブルもたくさんあって、厄払いにも行ったレベルで(笑)。刑事沙汰2つ、民事沙汰3つが起こったり、車燃やされたり、現実はいろんな苦しいことがありましたね。今は、知り合いの社長のところでお世話になっていて、副業しながら兼業しているという厳しい現実があるので、華やかな起業家ではないなと思いながらここにいます(笑)。」

起業の向き・不向き
起業を考え始めた時に、自分は向いているのだろうかと不安になることがあるはず。本気で起業を考えている方のなかには、不安を感じて尻込みしている方にいるかもしれません。
実際に起業経験のあるパネリストの考えをチェックしてみましょう!パネリストたちがどのような考えを持っているのかを知ることで、前向きな気持ちになれて、少し勇気が出るかもしれませんよ。
甲斐氏:「向いている人はいないと以前メディアに質問されて答えてしまった経験があります(笑)。起業をすると一人で全部やらなければいけないんですけど、全部できる人なんていないですよね。向いていないことに向き合わなければならないというのが、向き不向きになるのではないかなと思います。向いていないことを前提に人に頼れるかというのが大事。向いていない、できないことを受け入れて他人と協働できるかが大切かなと思います。」
河野辺氏:「僕はお金がないことのストレス耐性が強いので、その部分で言うと向いているかもしれないなと思います。お金なくても楽しめる。家なくてもいいし、楽しめているので(笑)。」
久富氏:「私は答えがないことに不安を抱かないタイプなので、それはよく言われますし強みかなと。私はいろんな方の起業相談にも乗らせてもらっていますが、向いていない人はいないのではないかと思いますね。人それぞれの起業の形があるのではないかと気づいたのが、起業支援からの学びです。」
金子氏:「起業するということを、”就職する”ことの選択肢の一つとして持っておくのはいいのではないかなと思います。向き不向きよりは視野を広げると選択肢が広がり、リスク分散もできるのかなと思っています。」
一緒にビジネスをする人
起業をすると一人で何でもやらなければならないと考えがち。しかし、実際は一人でできることには限界があるものです。
金子氏:「僕にできないことをできる人を集めています。今いるスタッフはほぼほぼ全員僕の一本釣りです(笑)。起業時は自分と共通のスキルがある人と共感することで一緒に動き始めたんですが、そういう人が集めると最初は盛り上がっても揉めることも増えたんです。今では視点を変えて、全員違うスキルを持っている人を集めて、リスペクトできる環境があると良いなと思っています。」
久富氏:「金子さんとほぼ同じですかね。当時業務委託としての働き方が一般的になりつつあったタイミングだったので、優秀な人と一緒に働きやすくなったなと感じます。」
河野辺氏:「大学院時代にいろんな人にアイデアを話して、楽しそうだねって言ってくれる人と一緒にやるという感じでしたね。技術的にも興味を持ってくれて、面白いと感じてくれている大学院の仲間と始めました。次第に興味を失って離れる人もいるので、今は残っている人と一緒に仕事をしています。」
甲斐氏:「学生時代のつながりから興味関心だけで人を集めてしまったんですけど、その時にミスったなって思うのは、自分にできないことをできる人という観点がなかったことですね。事業に必要な人という観点が必要だったなと思います。リノベーションやるのに、誰も建築の知識がないとか、そういうことがありました(笑)。」
失敗しないコツ
パネリストへの最後の問いは、「先輩からのアドバイス、こんなところに気をつけて取り組むといいよ!」というもの。これから起業に向けて動こうとする参加者にとって、有益な情報ですよね。パネリストのみなさんは、こんな風に答えていました。
甲斐氏:「起業はやりたいこと、解決したいことを実現するための手段の一つだと思っています。起業を目的としてしまうと、その後いろいろ狂ってきてしまうような気がします。就職もその手段の一つかもしれないし、起業は目的ではなく手段であって、目的を達成するための最適な手段が起業なのか、目的設定が大切かなと。」
河野辺氏:「楠木健さんという方の言葉で好きな言葉があって、”安心しろ、きっと失敗するから”というのがあるんですよ。本当に失敗します(笑)。だからこそ、失敗した時にダメにならないように、自分のメンタル、体のマネジメントをすることが大事だというのがアドバイスです。」
久富氏:「しんどい時に意思決定しないことが大事。起業するとお金のことや人の採用など、いろんなことを決めなければならないことに迫られますけど、しんどい時は正しい判断できないですね。健康、タイミングが本当に大事です。」
金子氏:「とことん動き続けることが大事。断られても、うまく行かなくても、動き続けていろんなところにアプローチしていくと、事業も磨き上げられていく。自分を必要としている場所は必ずあるので、見つけるまではやめないことが重要ですね。僕も失敗をたくさんしてきたし、大きすぎる失敗は立て直せないけど、動き続けて小さなアクションを積み重ねると失敗を回避できる知恵が身につくと思っています。」

クロッシングクエストの開催・起業相談も随時受付中

参加者の多くが目を輝かせながら熱心にメモを取り、熱気溢れるイベントとなったパネルディスカッション。イベントの終盤では、「MEISEI CROSSING BASE」の大きな特徴でもある「クロッシングクエスト」について、株式会社リビタと日野市より、具体的な課題解決に向けてクエストの説明も行われました。
実際に課題を抱える組織からの説明で、具体的な課題解決のイメージやアイデアが浮かんだ方も多かったのではないでしょうか?瞬間的なひらめきがあると、ワクワクするものです。
このワクワク感やモチベーションを保ち、本格的に起業に向けてアクションを起こしていくにあたり、ぜひ活用してほしいのが、「MEISEI CROSSING BASE」で提供している起業相談です。
「知識がなさすぎて何から始めたらいいかわからない」「こんなことを聞いたら変に思われてしまうのではないか」。そんな風に感じることがあるかもしれません。でも大丈夫。そんな時こそ起業相談を活用し、少しずつイメージを具現化し、自信をつけていきましょう!どんなささいなことでも専門家に相談できるなんて、なかなかないチャンスです!
多摩エリアを魅力的な人材が集まるクリエイティブな地域に!

苦労も失敗も重ねてきたから起業家だからこそのリアルな意見や視点は、起業を目指す参加者にとって目からウロコな話も多かったのではないでしょうか。同時に多くの気づきをもたらし、参加者の背中を押す刺激になったかと思います。
イベント終了後には、パネリストと参加者がざっくばらんにクロッシングできる交流会が開かれました。パネリストの方々の人柄もあり、参加者も個々の疑問や思いを打ち明け、意見交換ができるすばらしい時間になったようです。
デザイン学部教授の萩原修先生が、閉会の挨拶でこんなことをおっしゃっていました。
「大学を出て就職し、新宿まで出稼ぎに通っていた。多摩エリアにも都心に依存しない就職先、ビジネスをつくり、経済の循環を実現したい。明星大学には9学部もあり、さまざまな学びがある。さまざまな知識や技術を持ち寄って、新しいビジネスを生み出し、世界から注目されるようなクリエイティブなエリアにしたい。」
萩原修先生の願いは、壮大なビジョンのように聞こえるかもしれません。だけど決して不可能ではない。むしろ、そこに可能性を感じているからこそ、今「MEISEI CROSSING BASE」が注目を集め始めているのではないでしょうか。まだまだ始まったばかり!これからの活動にもご期待ください!